はい、泳げません 高橋 秀実

  • 2021.07.11
はい、泳げません 高橋 秀実

ある日僕は何を思ったか水泳を始めてみようと思った。それまでの僕は水泳とは無縁だったし25メートルを泳ぐことも出来なかったのにも関わらず。知り合いの自転車屋さんに来ていた女の人がそんな僕に「私も最初にトライアスロンのレースに申し込んだ時はまだカナヅチでしたよ。25メートル泳げるようになるまでは結構大変ですけど、25メートル泳げたら次の日は400メートル泳げますよ。」とニコニコしながら話してくれた。その言葉を半分ウソで半分ホントと信じて毎日仕事が終わるとプールに通った。そして遂に必死の思いで25メートルを泳ぎきることが出来たその翌日、25メートルを泳いでターンをしてみたら何と急に身体が軽くなり気が付いたら400メートルを泳ぎ切っていた。一旦25メートルを泳ぐことが出来るようになると、もう泳げなかった自分のことを思い出すことが出来なくなる。だから水泳を教えるコーチには泳げない人の気持ちなんかわかる訳がないのである。

本: 「はい、泳げません」 高橋秀実
ブックカバー: 鳴門鯛焼本舗