私の食物誌 吉田健一

  • 2019.07.15
私の食物誌 吉田健一

福井県というところは実に食べものの旨いところである。冬は越前蟹。観光客は雄の楚蟹(ズワイガニ)を食べる。地元の人は専ら雌の勢子蟹(セイコガニ)を食べる。雌がお奨めだが、漁ができる時期は限られている。夏は鯖。串に刺した丸鯖を炭火で焼いたものを魚屋の店頭で売っている。半夏生には地元の人は焼き鯖を食べる。若狭ではカレイやフグが旨い。厚揚げ。福井の厚揚げと他の地域の厚揚げは掌に載せて比べると簡単に違いがわかる。どっしり重いのが福井の厚揚げ。秋は奥越の里芋。大野市の上庄という地区のものが特に旨い。そして、何と言っても蕎麦。福井の蕎麦は、おろし蕎麦。黒い蕎麦に大根おろしと葱と鰹節を乗せて出し汁をかけて食べる。お米も旨い。コシヒカリは魚沼のものだと思われているが、実は福井県が発明した品種である。福井県は位置的には京都府と石川県に挟まれたところで、昔は小浜から京都に海産物を運んでいたので様々な調理法が発達した地域だ。お隣の京都も金沢も料理の話題では頻繁に紹介される常連であり、そこに挟まれた地域の食べものが旨くない訳がない。しかし、これが県民性なのか宣伝することに関してあまり積極的ではなく、そんなに話題として取り上げられることはない。吉田健一の「私の食物誌」。日本にある旨いものを全国津々浦々求めて歩き、その特徴を筆で表現した一冊である。京都や金沢のものは何度も出てくるのだが、この本も御多分に洩れず福井県のものは何一つ紹介されていない。なので、文化元年(1804年)創業、福井の天たつの包装紙でブックカバーを作り、そこの部分を補っておくことにした。桐箱に入った天たつの雲丹、美味しいです。

本: 「私の食物誌」吉田健一
ブックカバー: 雲丹の天たつ