イタリア発 イタリア着 内田洋子
- 2020.11.03
- 本
ローマの空港に到着したのは良いが荷物が出てこない。最後まで待ってみたが遂に出てこなかった。乗り換えのシャルルドゴール空港で積み忘れたと思われる。荷物受取コンベアの片隅には荷物が出てこなかった乗客専用の手続きカウンターが用意してあり長蛇の列になっていた。長時間待たされてようやくたどり着いたカウンターではコンピュータの画面を見せられ、出てこなかったカバンの数と種類、それぞれの色と大きさなどを写真の中から選択し、預けた際に発行された番号と受け取り方法または配達先などを入力し、バーコードと問い合わせ番号そして荷物紛失専用デスクの電話番号が印刷された紛失証明を渡されるという素晴らしくオーガナイズされたシステムによって処理された。その日は空港近くのホテルに宿泊予定だったので、翌朝に荷物を届けてもらう手配をした。ところが翌朝に届いたのは三つの荷物のうちのひとつのみ。荷物紛失専用デスクに電話をして問い合わせ番号を伝えると、残りの荷物は翌日に届ける予定だと言う。仕方なくホテルに延泊をしたが、その翌日に届けられた荷物は残りふたつのうちのひとつのみ。美しくオーガナイズされたシステムが発行した紛失証明を手に荷物紛失専用デスクに再度電話をすると、もうひとつの荷物は更にその翌日に配達予定だと告げられた。一泊の予定だったホテルに三泊もし、四日目の朝に遂に届けられたスーツケースは鍵が壊されて中身が荒らされていた。完全に怒り心頭となり空港の荷物紛失専用デスクに乗り込んで、知っている限りの単語を駆使して自分の出来る最高レベルの苦情をカウンターの内側の係員に押し付けた。最後まで話を聞いてくれた係員は「そんなに大切な荷物だったら預けなければ良かったじゃやない!」と一言。 これが僕のイタリア赴任における最初のイタリアの洗礼だった。しかし、こんなことでいちいちうろたえていてはこの国では暮らしていけないということに気付くのにはそんなに多くの日数を要しなかった。
本: 「イタリア発 イタリア着」 内田洋子
ブックカバー: ROMAの地図
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