2023年4月

牧野富太郎の恋 長尾剛

  • 2023.04.29

身体が弱かった幼少の頃の僕は、一緒に暮らしていた明治生まれの祖母にドクダミ茶を飲まされていた。苦いドクダミ茶を飲むのは子供にとって苦痛以外の何ものでもなく、鼻と舌がそれが何かを感じ取る前に一気に流し込むように飲むしか方法がなかった。道端を歩いていてドクダミを見つけると、それだけでドクダミ茶を飲む瞬間を思い出してしまうので、思わず目をそらしていた。きっと牧野富太郎さんくらいに探求心があれば、その花や […]

葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午

  • 2023.04.22

桜で染めたという布を見て、てっきり僕は桜の花を使って染めたものだとばっかり思っていた。ところがある時、草木染をしている方から、桜の木を煮出した湯に布を浸けておくと桜色に染まるのだと教えてもらった。桜の木そのものは桜色をしているわけではないので、この事実にものすごく驚いてしまった。桜の花が散ってしまうと、次の春になるまでは全く見向きもされない桜の木が、誰にも見られることがなくても桜としての誇りを持ち […]

あの頃、忌野清志郎と 片岡たまき

  • 2023.04.16

弁当屋を営んでいる友人がいる。彼の経営スタイルは独特である。その独特さを表現するのは難しいのであるが、ひと言で表現するならばロックなのだ。パンチの効いたビートとしっとりとしたスローなバラードが同居した厨房を簡単に想像することができる。彼らの作る弁当は主にテレビ局の楽屋に届けられる。芸能人やスタッフさんが作業をしながら食べることが出来るように、弁当箱のサイズは片手で持ちやすいように工夫が施されている […]